今年は二か月以上海外にいて、年明けからはその準備に忙殺されました。
でも現地に行ってしまえば、日本にいるときほどスケジュールがタイトではないので、舞台数は去年ほどではないだろうと思っていたら、ほぼ同じ。
ということは、国内での仕事は、去年よりも濃密だったということ。とくに秋は忙しかったです。
お仕事を順調にいただけて、本当に有難いことだとおもっております。
【今年つくったり覚えたりした演題】
○「浪曲 熱海殺人事件」(つかこうへい原作 奈々福作)
3月の、喬太郎師匠をうならせたい、という会のために作った新作です、4月の勉強会でもやりましたが、まだ前半しかやってません。来年5月に、紀伊国屋ホールで「熱海殺人事件」の会を開催、初めてフルバージョンをかけます。
○「浪曲 研辰の討たれ」(木村錦花原作 野田秀樹脚本 奈々福浪曲化)
歌舞伎演題です。13年、心の中で温めていたものを浪曲化。原作を生かした部分、野田さんのアイディアを生かした部分、またオリジナル部分もあり(そりゃ当然、浪曲の節の文句つくらなければならないのですから)。これもまだ半分しかやってなくて、2月の拝鈍亭で、全編通し公演します。
○「今年の味噌ができた日に」
12月の喬太郎師匠をうならせたい、のために作った、喬太郎師匠の「ハンバーグができるまで」へのリスペクトを込めたスピンオフ浪曲。奈々福流のお茶の淹れ方、味噌汁の作り方、味噌の作り方を読み込んだ前代未聞の内容です。独立した一篇として成立しているので、場によってかけていきたいと思います。
……こんなに覚えたものも新作製作も少なかった年は今までない。来年はもっと覚えよう。
【語り芸パースペクティブ】
昨年4月から始めた「奈々福がたずねる語り芸パースペクティブ」全11回+番外編1回が2月に無事終了しました。この企画は勉強になりました。視野が広がり深まりました。なぜ落語があるのに、講談があり、浪曲があるのか、が、わかった。近接芸能とおもっていたけれど、背負っているものが全然違うのだ。この視点からの勉強は続けていきたいとおもっています。
この会は、告知初日に通しチケット(全11回分30000円 限定60名様)が売り切れてしまい、結局80名様くらいぎちぎちに入っていただくことになり、せっかく刷ったチラシをほとんど使わなかった。ご存知なかった方もおられると思うので、チラシ画像上げておきます。


以下、全11回+番外編の内容を掲出します。
2017年
4月17日 日本芸能総論 篠田正浩(映画監督)
5月26日 節談説教 廣陵兼純(説教師・満覚寺住職)釈徹宗(相愛大学教授)
6月14日 説経祭文+ごぜ唄 渡部八太夫(説経祭文)・萱森直子(ごぜ唄)
7月8日 番外編 浪曲とパンソリの会 安聖民(パンソリ唱者)・李昌燮(鼓手) 玉川奈々福(浪曲)・沢村豊子(曲師) 姜信子(作家)
8月15日 義太夫節 豊竹呂勢太夫(人形浄瑠璃文楽太夫)・鶴澤藤蔵(三味線)・児玉竜一(早稲田大学教授)
8月25日 講談 神田愛山(講談師・東京)旭堂南海(講談師・上方)
9月26日 女流義太夫 竹本駒之助(浄瑠璃・人間国宝)・鶴澤寛也(三味線)・児玉竜一(早稲田大学教授)
10月30日 能楽 安田登(下掛宝生流ワキ方)槻宅聡(森田流笛方)
11月15日 上方落語 桂九雀(上方落語)小佐田定雄(落語作家)
12月18日 浪曲 澤孝子(浪曲師 曲師:佐藤貴美江) 玉川奈々福(曲師:沢村豊子) 稲田和浩(浪曲作家)
2018年
1月29日 江戸落語 三遊亭萬橘(落語)和田尚久(演芸評論家)
2月19日 語り芸の来し方行く末 安田登(能楽師)いとうせいこう(俳優、 小説家、お笑いタレント、作詞家、ラッパー、ベランダーとして幅広く活動するクリエイター)
【海外公演】
1月15日〜20日 中国公演(北京、蘇州、上海 能の安田登先生、狂言の奥津健太郎先生とご一緒に 曲師:沢村美舟)
2月12日〜18日 イナンナの冥界下り欧州公演(イギリス・リトアニア 安田登一座)
5月27日〜7月10日 文化庁文化交流使として中欧、中央アジア公演(イタリア、スロベニア、オーストリア、ハンガリー、ポーランド、キルギス、ウズベキスタン 曲師:沢村美舟)
10月29日〜11月1日 中国公演(世界幽黙芸術週間に参加@張家港市 曲師:沢村美舟)
今年一番大きい出来事は、やはり海外公演でした。二か月以上、海外にいたことになります。
とくに5月末からの文化交流使としての公演は、行き先を考え、なんの縁もないところからご縁を作って一つ一つ交渉し、実現にこぎつけるまでの過程が大変でした。
いずれの旅も、多くの方にお世話になり、支えていただき実現できたことでした。
そして、海外で浪曲が受けたことがなにより嬉しかった。壁は、なかった。
この経験が自分にどんな影響を及ぼしたかはあまり自覚できませんが、帰国後、多くのお客様に声が変わったと言われました。
また、東京を離れ、日常を離れて旅に生きる、という経験は得難いものだったと思います。
同行してくれた若手曲師、沢村美舟さんにも感謝です。
現地語入れて浪曲やったり、子どもたち相手にワークショップをしたり、観光したり。
スロベニアの洞窟城。ポーランドの古都・クラクフの教会建築の美しさ。キルギスの、雪をいただいた山々と清流。ウズベキスタンの青の都、サマルカンド……思い出して切なくなります。
ものすごく、面白かった!!!
未知の楽器、芸能と出会うこともできました。また行きたい場所も数々。
ああ、サマルカンドに、アーモンドと干し葡萄買うためだけにでも再訪したいぞうっ!
【自主企画公演】
1月「玉川奈々福のキネマ&ライブ」@カメリアホール 田島空監督作品「噂の玉川奈々福キネマ更紗」上映と、実演の会。
2月「愛山終活始めました。」@木馬亭 愛山先生の会をプロデュース
7月「奈々福・勝千代二人会 東海道浪花節道中」@木馬亭 木村勝千代さんと、東海道にちなんだ演題を
8月「田島空の、撮って出し!」@カメリアプラザ和室
文化交流使の、田島さんが同行してくれたスロベニアとキルギス、ウズベキスタンの動画の上映会。
9月「奈々福なないろvol.1」@カメリアホール
今年から始めた独演会。初回は、百鬼ゆめひなさんをゲストに迎え「椿太夫の恋」を人形とコラボしました。
10月、11月「浪曲。三味線の、視座」全三回で、浪曲を三味線の側から魅力を探る企画を、豊子師匠、みね子師匠、さくらさんをお迎えして開催しました。
……二か月海外行ったのに、語り芸パーだってまだやってたのに、こんだけ自主企画するって、われながら偉いわよね。
【語り公演・学校公演】
2月「イナンナの冥界下り」@ロンドン大学 @ビリニュス国立ドラマ劇場
7月「わたしはあんじゅひめ子である」@学習院大学 姜信子さん講座にて
8月「イナンナの冥界下り」「人食いおかあさん」@凱風館
9月「イナンナの冥界下り」@アーツカウンシル東京
12月「イナンナの冥界下り」「夢十夜」@代官山 晴れたら空に豆まいて
丸三年間の「イナンナプロジェクト」が2月の欧州公演で一段落しました。その後のイナンナは驚くほど進化して、いまや初演とはまったく違うものになっております。来年は2月に、松江で泉鏡花「天守物語」を(富姫役!)、3月には鳥取で、大伴家持の芝居に語り(言霊の精霊!)で参加予定。
学校公演も例年より多く行きました。子どもほど手ごわい観客はいない。腕力を鍛えられます。小学校、中学校。二時間もらって、口演とワークショップやると、こちらはへとへとになりますが、閉じていた子どもたちが如実に代わるのが面白いです。お子さんや、心身弱られている方々のもとへ行って、語りたいです。
【メディア】
大きなものとしては、
〇「ほぼ日の学校」編集長の河野通和さんにインタビューしていただいた記事。
〇雑誌「AERA」の現代の肖像で、千葉望さんにインタビューしていただいた記事。
〇東京かわら版11月号巻頭で、弟弟子・太福さんと二人で受けたインタビュー記事
……が出たことです。いずれも以前からお付き合いがあり、信頼関係があり、丁寧に話を聞いてくださったので、今まで話していなかったことなどもしゃべってしまいました。「ほぼ日」はこちらで今も読めます。https://gakkou.1101.com/online/2018-06-25.html
また、田島空監督が2014年暮れから二年半追いかけて奈々福の舞台・舞台裏を撮ってくれた記録をまとめた「噂の玉川奈々福 キネマ更紗」の上映会を1月に行いましたが、この作品が、映文連アワード2018の審査員特別賞を受賞し、11月に授賞式と上映会が行われました。
このあと、1月に沖縄で、2月に北海道で上映会があるようです。
これは、私の活動のドキュメンタリーではありますが、浪曲という芸能の舞台裏でもあり、二人芸である浪曲の、浪曲師と曲師の関係性の記録でもあり、浪曲を理解していただく上で大変いい導入であると思います。
田島監督には、感謝しかありません。
多くの方に見ていただきたく、DVDになっておりますので、これを上映してくださる場所を大募集しております。
ななふく本舗にご相談くださいませ。
それから、今年、初のDVDを製作しました。1月にカメリアホールで行った「キネマ&ライブ」のときのライブを収録したものです。
「ほとばしる浪花節 玉川奈々福ライブ!」(ご挨拶+弾き語りシンデレラ+仙台の鬼夫婦を収録)。定価3240円(税込)。
まだご覧いただいていな方、どうかご購入くださいませ。アマゾンでも入手できますし、ななふく本舗でも受け付けております。
それから、作家の姜信子さんが、膨大な時間と手間をかけて沢村豊子師匠の話を聞き、一代記にまとめてくださった文章が収録された本が出ました。
『現代説経集』(ぷねうま舎)。豊子師匠の一代記にとどまらず、時代と浪曲と、それに翻弄された「声」の物語です。https://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E8%AA%AC%E6%95%99%E9%9B%86-%E5%A7%9C-%E4%BF%A1%E5%AD%90/dp/4906791808/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1545615283&sr=8-1&keywords=%E5%A7%9C%E4%BF%A1%E5%AD%90
追記:大事なこと忘れてた。北海道以外の方にはお目に触れる機会がないと思いますが、北海道新聞の連載「玉川奈々福の本やら芸やら」続いております。書評連載で、今年は7回掲載されました。取り上げた本。松井今朝子著『師父の遺言』、須田泰成著『蘇るサバ缶 震災と希望と人情商店街』、高島幸次著『上方落語史観』、濱田研吾著『脇役本』、美馬勇作編『女優 山田五十鈴』、森薫著『乙嫁語り』、道野正著『料理人という生き方』、神田松之丞・長井好広著『神田松之丞 講談入門』。そして来年1月早々には、石牟礼道子『あやとりの記』のご紹介が掲載されます。われながら、いい選書センスだ………。
それから、アプリ版のぴあで、12月から連載が始まりました。『玉川奈々福の浪花節的ココロ』。落語でも講談でもない、浪曲の中に流れる私が大好きと思う価値観について、書いていきたいと思います。月一回、全10回予定。とりあえず、PCで検索してみたURLをはっときますが。ぜひスマホでアプリをインストールしてみてください。https://www.p.pia.jp/shared/cnt-s/cnt-s-11-02_2_8237ebe2-e8e6-4b33-9fb9-42b234885abf.html
【そして来年】
今日情報解禁になりましたが、来年早々、NHK Eテレの「SWITCHインタビュー 達人達」で、映画監督の周防正行さんと対談させていただいたのが放映になります。
周防さんは、現在、活動弁士が活躍した時代を舞台にした「カツベン!(仮)」という映画を制作中。その取材の中で浪曲に出会い、ドはまりしてしまい、奈々福と対談をと望んでくださり、実現したもので、NHKの方々が「もう十分です、終了!」というのも聞かずに、聞きまくりしゃべりまくりました。周防さん、映画のこと語り始めたら止まらないです。ぜひ見てくださいませ。1月19日、22時〜NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達」
http://www4.nhk.or.jp/switch-int/x/2019-01-19/31/66351/2037199/?fbclid=IwAR1okL93dxVSkwzaSnqHQLwhOfa1YNWy4W-5VfnLwxTmJtHNFWA2EXiXLU8
でもって、来年……。
「浪曲破天荒列伝」「ほとばしる純情浪曲」「語り芸パースペクティブ」そして海外公演と、ここ数年、腕力のいる大きな企画を数々やってきて、やっと一息ついた感じです。
来年は、2月にチャレンジングな能楽堂独演会、5月に紀伊国屋ホールでの「熱海殺人事件」独演会、9月は恒例の「奈々福なないろ」があるほか、もう一つ、東京と関西と九州で大きな企画がありますが、来年は……すこしのんびりしたいのです。
プチ・サバティカル・イヤー(笑)。
というか……ちょっと考えていることがあり、それは今までの方向性とはまったく違うことであり、それに向けて仕込む年に。
そして、自分の中に貯める年にしたい。
実現したい夢があって、それは一人の力でどうなることではありませんが、ご縁を得て、ゆっくりゆっくり準備していきたいと思います。
そして来年5月は、師匠の十三回忌です。弟子たちで会をします。
師匠がどんなふうに、今の私を、弟子たちを、浪曲を見てくれているかと思いつつ。
年末に、とっても嬉しいニュースが飛び込んできました。関東の東家一太郎(曲師:東家美)、関西の真山隼人(曲師:沢村さくら)の、文化庁芸術祭大衆芸能部門の新人賞ダブル受賞。びっくりしました。心底嬉しい、よかったなあ。本当に頼もしく力強い。うちの師匠と武春師匠に、報告したい。うちの師匠、でっかい目をさらにでっかく見開いて驚くんじゃあなかろうか。若手の入門も相次いでいます。時代が変わってきたな、変わっていくんだなと、いうのを確実に感じます。とにかく浪曲が、今を生きるエンターテイメントとして認識され、多くの方々が楽しんでくださるようになることを願っています。
そして最後に。
奈々福を応援してくださるお客様。
今年もほんとうに、お世話になりました。支えていただきました。
どうか来る年も、よろしくお付き合いくださいませ。
来年が、より良い年でありますよう、心底祈りつつ。
10月の浪曲大会。「豊子と奈々福の浪花節更紗」を演じてる最中のワンシーン。御堂義乘さん撮影。来年は豊子師匠に寂しい思いをさせずに済むと思います。